設立趣意

理事長 杉本 洋

日本には多くの、そして豊かな文化遺産が遺されています。その姿は、製作した人々はもとより、世代を超えて伝え遺そうとしている強い意志によって、今日みることができます。伝統的な行事、喫茶文化をはじめとする文化、歌舞伎や能といった諸芸能、それらは日本をはじめ世界の人々を魅了し続けています。

しかし、著名な文化資産は、注目を浴びながら維持・継承されている反面、時代を経る中で維持が難しくなっているものもあります。その最たるものが、掛軸や屏風、巻子といった美術・工芸作品といってもよいでしょう。国宝や重要文化財に指定され、保存・修復されているものはごく一部に過ぎません。各地域にある神社や寺院また、個人が所有されている多くの文化資産は修理・修復がなされないまま、今日に至っています。また保存・修復をする道具や材料も時代の推移によって、確保できないものもあります。代表的なものが鹿膠です。膠とは動物の皮や骨から作られるもので、いわば接着剤です。絵画作品の制作にも、また保存・修復にも用いられています。日本の絵画作成や保存・修復で用いられていた鹿膠は、生産量が少ないのが現状です。

そうした危機的な状況を鑑み、今日まで遺されてきた文化遺産を、未来に向けて伝えられるよう何か手立てはないものかと考え、我々は日本文化資産支援機構を立ち上げました。 文化財保護法という掌中から、こぼれ落ちている文化遺産たちを何とかしたいという強い思いが出発点です。

本法人では、1300年以上の歴史を持つ奈良県を拠点として、国宝や重要文化財に準じるさまざまな文化資産について調査や鑑定、及び保存修復を主として行います。国内のみならず、海外の美術館や個人コレクターの所蔵品も対象にした事業展開を考えています。

こうした事業を展開するにあたり、財源として鹿膠の製造・販売を行う予定です。現在奈良県では、農業・林業の保全のため、日本鹿が駆除されています。廃棄されている日本鹿の皮を有効活用して膠を製造し販売するとともに資産の修理・修復にも活用したいと思います。併せて、文化資産を未来に伝えるため、重要になるのは修復技術者の教育・育成です。文化資産の修理・修復を通じて若手育成にも取り組む所存です。

以上が本法人を設立に至った趣旨となります。何卒、ご支援・ご協力を賜りますようお願い申し上げます。